森の声を聴く #02 オオウバユリ

文・写真:萩原寛暢 編集:MKTマガジン 

森の声を聞き、人間の言葉にして伝えてくれるインタープリタ―(通訳者)の萩原寛暢(通称ハギー)さんによる連載。MKTやその周辺の植物を中心に、それらにまつわる土地や動物など、トレイルの傍らにひっそりと強く生きるものたちが放つメッセージやストーリーを拾い上げ、ハギーさんの想いと共に、優しく、丁寧に解説していきます。

こんにちは。自然ガイドの萩原寛暢(はぎわらひろのぶ)です。トレイルハイクの景色がより彩り豊かになるよう、トレイル沿いで観察できる自然の営みにスポットを当てていくこの企画。

今回ご紹介するのは、8月の盛夏直前に目立ってくるユリ科の中でもひときわ大きく咲き誇るオオウバユリです。普段から観察をしているとダイナミックに形態を変えていくので、1年を通じて見応えがある植物です。あなたが出会った時はどの形態でしょうか?

盛夏目前!ユリの仲間が元気ですよね

盛夏とは言っても、夏が冷涼な釧路・根室地方のここ弟子屈町。6、7月は爽やかにトレイルハイクが楽しむことができる季節です。ただ、日によっては暑かったり寒かったり寒暖の差も大きいですし、涼しくとも陽射しは強いので備えは必要です。
「MKTの歩き方」を参照

前回紹介した、春先の小さな野の花「スプリング・エフェメラル」の開花時期が過ぎ、木々の葉が茂り、緑が濃くなってきたように感じる7月になると、茂った下草の中にやや大柄な植物も目立つようになってきます。一部を紹介しますと…

まずは、6月中旬あたりから道路沿いに咲くエゾスカシユリ。オホーツク海側のワッカ原生花園や小清水原生花園といった、海岸草地でお花畑を作る野の花の代表格ですが、意外に道路沿いに咲いているもので、車で移動中にオレンジ色が一瞬車窓を通り過ぎることがあればこのエゾスカシユリです。

オレンジ色がエゾスカシユリ。2018年7月8日小清水原生花園にて。

トレイルハイク中にも車道沿いで見つけることがあると思います。もちろん車の往来には十分に注意していただきたいのですが、もし近づけるような場所であれば上から花を覗いてみましょう。

気取ったような佇まいで「すかして」咲いているように見えますが、実際には花弁のつけ根が細くなっており、透かして向こう側が見えるので「透かしユリ」というわけでした(ガイドの鉄板ネタです笑)。

すかして咲いてやがります!

続いて、和琴半島の森の中で鮮やかなオレンジ色が目を引くクルマユリ。散策路を歩いていると、ササなどの茂みの中でひっそりと咲いているのに不意に気づくことがある花です。注意していないと通り過ぎてしまうので、和琴半島の入口にあるフィールドハウスで情報収集もしながら探すことをお勧めします。

もし咲いているのを見つけることができたら、お花だけでなく茎の途中にある葉にも注目してみましょう。葉が車輪のように広がっています。はい、もうお分かりですね。「車ユリ」というわけです。

葉に注目。分かりやすい!

そして、今回のテーマとなるのは、オオウバユリ。

これも道路沿いで咲いているのを見かけることが多い花ですが、車で移動していると多くの方が気づかずに通過してしまっている印象です。下草が茂ってきているこの時期でも、スッと背が高くてよく目立つので、歩いていれば否が応でも目に付くはず。やはり、じっくり観察できるのは歩く人の特権です。

オオウバユリはどんな植物?

オオウバユリは、ユリ科(ウバユリ属)の多年草です。本州中部・東北、北海道内に分布して、樹林帯の林床に生育するとされているので、和琴半島などの森の散策路でも出会いますが、先ほども述べたように、よく見かけるのは道路沿い。

高さが1~1.5mにもなる巨大な植物で、緑白色で筒状の花を5~20個も横向きに咲かせます。ラッパのように金管楽器の先端部(ベル)を連想するような形状で、散策中に不意に見つけると、迫力のある佇まいに、思わず「おぉっ!」と声が出てしまいます。

おぉっ!存在感がありますね。

前回のエンレイソウの時にも触れましたが、ユリ科といえば地下の球根に養分を蓄えることがイメージされやすいと思います。オオウバユリも同様に地下に鱗茎があり、10年近くも栄養を蓄えてからようやく開花するとされています。

開花するまでも、そして花が終わってからも1年中存在感がある植物。注目すべきはその成長変化。トレイルハイク中に出会うのが『どの形態』になるのか、順を追って見てみましょう。

出会った時はどの状態?オオウバユリの形態七変化

①『芽吹き』 赤い葉脈にツヤツヤした葉が特徴

まだ下草が伸びてくる春先、4月下旬~5月上旬の頃には、地面からニョキっと葉が出てきます。葉脈が赤く、厚みがあってツヤツヤしているので、他の植物と区別が付けやすい時期です。この時期は、これがあんなに大きくなるなんて…と思うわけです。

まだ下草も伸びていないので見つけやすい。

②『成長期』 ここをチェック!今年は花が咲く?咲かない?

芽吹きの頃のように葉脈の赤みは無くなりますが、他の植物よりも大きくて存在感があります。群落になっている場所でよく見てみると、葉が分かれている個体、根元から1本で立ち上がっている個体というように違いに気づけると思います。前者は数年後の開花にむけて栄養を蓄えている最中の個体、後者はその年にこれから花を付けようとしている個体です。

根元から枝分かれしているのは、栄養を蓄え中
根元から一本で立ち上がっているのは、今年これから花を咲かせます

③『蕾』 花を咲かせる準備中。

6月下旬になると、大きく開いた葉の中心にふっくらとした蕾が見られるようになってきます。この蕾からラッパ型の花を咲かせるのもなかなかイメージが付きにくいですが、ここから蕾がバラバラと上に伸びながら分割していき、最終的には横向きに開花します。

この蕾はまだまだ序の口ですよ!

④『開花直前』 蕾からニョキニョキ分裂

蕾が開くとともに、分割しながら上にニョキっと伸びてきたのがこの状態。なんというか、ロボットアニメ的なギミックで、男児の心を鷲づかみにするようなカッコよさを感じてしまうのは僕だけでしょうか…。この開花直前の時期は日々目が離せません。

なんかビームとか出しそうで(笑)

⑤『開花』 爽やかな香り

満を持して咲いた花は、真っ白というわけではなく、図鑑通りの表現だと「緑白色」や「緑やクリーム色」。周囲の緑が濃くなったこの時期の森の中では白みが良く目立ちます。余談ですが、かつて花の色で仕分けられている図鑑の「白い花」のページでオオウバユリを見つけられずに、長時間図鑑の中をさまよったことがあるのも良い思い出です…。

芽吹きの頃からよく目立っていた葉は、開花する頃にはボロボロに枯れたようになり無くなってしまうことが多いため、「葉がなくなる」→「歯がなくなる」ということで「姥(ウバ)」の名がつけられているのだそうです。

開花しているオオウバユリに出会った時に、近くに寄れる場所であれば、ぜひ花の匂いを嗅いでみてください。迫力ある外見とは裏腹に、お花屋さんに入った時のような爽やかな香りがします。

例えるなら、そう、アレです。ユリのような香りです(そのまんま…)

⑥『結実』 1つの実に600もの種子

花の時期が終わり、花弁が落ちると、花は横向きだったのに、上を向いたひょろっと細長い緑色の実が残ります。10月の肌寒くなった頃には、この実は丸々と熟していきますが、徐々に枯れて縦に亀裂が入り、中からは「紙筒に入っているポテトチップス(チッ◯スターやプリン◯ルス)」のように整然とならんだ平たい種子が見えてきます。

どこかで見た「スライスしたニンニク」という表現が気に入っていますが、「キツネの小判」という可愛らしい呼び方もあるそうです。

我が家の子ども達にとっては、オオウバユリといえば、枯れて種子が出てきた頃の印象が強いようです。小さい頃にお散歩に出かけた先で、枯れた茎をゆすってはバラバラと種子を出して歓声を上げていたものです(もうお散歩にも付き合ってくれませんが泣)。数えようとして断念したことがありますが、1つの実に600もの種子が入っているとされているので、家に入る前にはちゃんとボディチェックをしないと、パーカーのフードなどに大量に種子が溜まっていたりするので要注意です。

丸々と熟した実に亀裂が入り始めた頃

⑦『枯れた後』 なんともお洒落な佇まい

種がすっかり抜け落ちた後になっても、この近辺では積雪が少ないこともあってか、立ち枯れた姿は翌年の春まで残っているのが見られます。

種が抜けたあとの独特の形は、自然素材を使ったリースなどにも使われることもあるようで、フリマアプリを探してみると結構いいお値段で売っていたりします。これはひと財産…と一瞬目がくらみそうになりますが、枯れた後の存在感も森の彩りの一つかと思いますので、適度に残ってくれることを願っています。

屈斜路コタンにあるアイヌ民族資料館では、館内の装飾に使われていました。(ずいぶん多くの花をつけていた個体ですねコレ!)

まとめ

一年を通して、その存在感を発揮してくれるオオウバユリ。

長い年月をかけて花を咲かせ、種を飛ばした後には根っこの鱗茎ごと枯れてしまいますが、翌春の立ち枯れた周囲の地面からは、新たに別個体が芽吹いているのが見られ、命を繋いでいく姿が見られます。

早春、枯死したオオウバユリの個体と新たな芽吹き。さらにスプリングエフェメラルも混在する群落

トレイルハイク中に見られる植物の姿は一期一会で、「その時」の姿しか見ることはできません。しかし、その前後の生育具合や、物言わぬ植物が一生懸命に命を繋いでいることにもイメージを膨らませていただければ嬉しいところです。

今回の記事では、地上部の四季の形態変化についてご紹介しましたが、実は地中の根っこ(鱗茎)の部分が、食用にできることも有名です。正直に言いますと、形態変化だけで話題が盛り上がってしまったので、地中のお話しは「後編」ということで、機会を改めてご紹介しようと思います!

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Writer

萩原 寛暢(はぎわら ひろのぶ)

1979年、北海道旭川市生まれ。山岳部出身の父親のもと、豊かな自然と父コレクションの地形図に囲まれた生活環境で育つ。自身の意志とは関係なく山に連れていかれた幼少期から、少々山が嫌いになるものの、高校時代の恩師との出会いから地理の教員を志し、大学では地理学を専攻。かつて嫌いになりかけていた山と地図読みの日々を、今度は自主的に行うことになる。

フィールドワーク中心の大学時代「人と自然の接点」について考え、疑問をもつようになる。同時期にある本に出会い「自然のことを通訳して人との接点をつくる=“インタープリター”」という仕事を知る。このことをきっかけに進路を大きく変更することとなる。

大学卒業後、いくつかのガイド会社で経験を積んだ後、国立公園のビジターセンター勤務、旅行会社でのガイド・着地型観光商品開発などを経て、一念発起してフリーランスとして独立。現在はフリーランスでの自然ガイドの他、地域の子ども向けに木育・自然体験活動の企画運営を行う「てしかが自然学校」を運営する。さらに家庭では2女の父として、娘からの塩対応に日々悩みながらも家事に奮闘する主夫でもある。

北海道知事認定 北海道マスターガイド(自然)
北海道知事認定 木育マイスター
弟子屈町議会議員

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