森の声を聴く #04 MKTの紅葉

文:萩原寛暢 写真:萩原寛暢、國分知貴 編集:MKTマガジン 

森の声を聞き、人間の言葉にして伝えてくれるインタープリタ―(通訳者)の萩原寛暢(通称ハギー)さんによる連載。MKTやその周辺の植物を中心に、それらにまつわる土地や動物など、トレイルの傍らにひっそりと強く生きるものたちが放つメッセージやストーリーを拾い上げ、ハギーさんの想いと共に、優しく、丁寧に解説していきます。

こんにちは。自然ガイドの萩原寛暢(はぎわらひろのぶ)です。トレイルハイクの景色がより彩り豊かになるよう、トレイル沿いで観察できる自然の営みにスポットを当てていくこの企画。

今回は、皆さんお待ちかねの紅葉シーズンについて。
摩周・屈斜路トレイルも徐々に木々の色づきが進んでいます。

紅葉シーズン到来

皆さんご存知のように、2023年夏シーズンは、涼しいはずのここ釧路地方でも暑い日が続きました。前回も軽く書きましたが、本来であればお盆を過ぎれば一気に涼しくなってきます。9月に入っても「いやぁ、暑いですね」という言葉があいさつ代わりになるように、今年は秋がやってくるのだろうかと心配になってしまうほどでしたが、この原稿を書いている9月下旬には、朝晩の冷え込みが10℃を下回る日もあり、キリっと引き締まった秋らしい空気になってきました。

雪虫を見たり、エゾシカのラッティングコール(※)を聞いたり、大雪山系では雪が降ったというSNSの投稿を見たりと、まぁまぁ例年並みに、秋の深まりは進んでいるように感じています。

ラジオでふと耳にした、とあるお天気ニュースでは、紅葉は2週間程度遅れるような話でした。ここ摩周湖・屈斜路湖エリアの紅葉のピークは、平年並みだと10月中旬あたり。さて、今年はどうなるか、楽しみなところです。

北海道人にはお馴染みの雪虫(トドノネオオワタムシ)。
初雪が降る少し前に目に付くので、秋の深まり(というか冬の始まり)を告げる風物詩です。

※ラッティングコール:繁殖期を迎えたエゾシカ(雄)が縄張りのアピールと求愛のために発する、甲高い鳴き声。

紅葉のメカニズム

紅葉は、いわば木々の冬支度で、落葉広葉樹が冬の間に葉を落とす前に色が変わっていく現象です。一般には最低気温が8℃を下回るようになると、葉の柄の部分と、枝との間に「離層」という仕切りができ、水や養分を運ぶ管が閉ざされます。

そうすると、葉の中の葉緑素が壊れて緑色が消え、それまで目立たなかったカロチノイドという黄色い色素が目立ってきます。これが、葉が黄色くなる「黄葉(おうよう・こうよう)」です。

また、葉の中に残った糖分がアントシアニンという赤い色素になって葉の細胞に広がるのが、赤い「紅葉」というものです。

昼夜の寒暖の差が大きいこと、夏場に十分に太陽の光に当たっていること、葉が枯れないように適度に湿潤であることが、紅葉の良し悪しを決める要素と言われています。

この黄色や赤色が鮮やかに紅葉シーズンを彩っていくわけですが、これに加えて常緑の針葉樹の濃緑色が適度に混じるのも摩周・屈斜路トレイルの紅葉のポイントだとお伝えしたいところです。

北海道の森林の多くは、広葉樹と針葉樹が混じる「針広混交林(しんこうこんこうりん)」です。シラカンバ・ダケカンバ、ヤチダモ、ハルニレ、ハリギリ、シナノキなど北海道を代表する広葉樹は、黄葉する樹種が多めではありますが、道内でも特に北部・東部ではエゾマツ(アカエゾマツ)、トドマツといった針葉樹が多く、濃緑のアクセントが混じるので、お互いの色彩がより際立って見えるのです。

針葉樹と広葉樹が混じる針広混交林(キムントー)

覚えておきたい紅葉・黄葉する樹種

紅葉時期のトレイルハイクでは、色づいた森全体を眺めたり、葉っぱを1枚1枚手に取ったりと、遠近両方の楽しみ方ができると思います。

色づいた葉の代表的なものをある程度覚えておくと、見え方もちょっと変わってくるはず。歩きながら1枚1枚紹介したいところですが、ここはグッと絞って何種類か紹介をしようと思います。

紅葉といえば、真っ先に挙げられるのが、モミジと呼ばれるカエデの仲間ではないでしょうか。かつてはカエデ科と分類されていましたが、現行ではムクロジ科カエデ属という分類になっています。正直なところムクロジという植物に馴染みがなく、ここでは「カエデ類」という表現にしておきます。

カエデ類は、手のひらを広げたように切れ込みが入っている特徴的な葉の形をしているので、トレイル沿いでもよく目立ちます。主に3種が確認できますが、見分けるポイントは、色・葉の切れ込みの数と裂け方・葉の縁のギザギザ(鋸歯)。

もうぶっちゃけ、この3種だけ覚えていれば、他の樹種は覚えなくてもいいんじゃないかと思うほどです(極論です…)。

①ヤマモミジ

本州でも紅葉する木の代表格と言えるイロハモミジの変種。本州でイロハモミジを見慣れている方は、ヤマモミジの葉の方がずいぶん大きいと感じると思います。色は赤、切れ込みの数は7~9で、深く裂けます(深裂)。葉の縁は粗くギザギザした鋸歯があります。

個人的な印象としては、あまり数は多くありませんが、紅葉シーズン後半でも真っ赤な葉を残していることがあるので、見つけやすいカエデの一つです。

「モミジ」と言えば、この形がシンボルになっているのではないでしょうか。

②ハウチワカエデ

切れ込みの数が7~11と多く、裂け方もさほど深くないので(中裂)、葉の全体的な形は円く見えます。なのでメイゲツカエデ(名月楓)とも呼ばれ、Fullmoon mapleという英名もあり、どちらも満月に例えられているほどです。これも、真っ赤に紅葉しますので、紅葉シーズンには、ひときわ目を引きます。

月に例えるとは風流ですよね。

③イタヤカエデ

切れ込みが、5~7と数が少なくて浅裂。さらに葉の縁に鋸歯はなくツルッとした印象です。また、上記2種とは違って黄色に染まります(変種で赤く染まるアカイタヤというのもあります)ので、はっきりと違いが分かると思います。葉の柄が長くて、風に吹かれた時にヒラヒラと葉が動くので、この辺も見分ける時のポイントかと思っています。

最近では、北海道内でもメープルシロップが生産されていますが、主にイタヤカエデの樹液が原料になっています。

木によってはオレンジっぽく感じるかもしれません。

おすすめ紅葉スポット

紅葉シーズンには、トレイル沿い全般が見栄えのするエリアではありますが、独断でお勧めするハイキングスポットを2つ紹介します。

①屈斜路湖畔・仁伏半島

何かと車道沿いの歩道のアスファルト上を歩くことになってしまう屈斜路湖畔ですが、木々に覆われた道路は、実は樹木の観察にはなかなか適したルートです。歩道より一段低いところに生えている木は、目線と同じところに葉があるので観察しやすいですし、アスファルトの上は落ち葉や木の実なども見つけやすいので「なんだろコレ」といちいち拾い集めていると、なかなか進まないので要注意です(笑)。

全国的な紅葉情報で名所としても取り上げられていることもありますので(かつてはヤ〇ーの特集でも見たことが)、映える写真も撮りやすいことでしょう。

湖畔沿いや森の中を歩きたいという方には、仁伏(にぶし)半島もお勧め。大きな広葉樹が多くて樹種も豊富です。ぐるっと周回もできるので、ちょっと散策したい方はぜひこちらを歩いてみてはいかがでしょうか。

仁伏半島の日当たりの良い南側斜面。思わずノビをするほど歩いていて気持ちが良い。

つつじヶ原自然探勝路

アトサヌプリ(硫黄山)~川湯温泉に続く、つつじヶ原自然探勝路。

途中の展望スペースである、ハイマツデッキに登ったら、アトサヌプリの隣にある「マクワンチサップ(通称:かぶと山)」をぜひ見てください。

向かって右側の斜面は、先ほどもご説明したような針広混交林。左側の斜面は、アトサヌプリの噴火活動の影響でハイマツなどの高山植物しか生育していません。くっきりと分かれた植生が観察しやすいのは、常緑のハイマツが目立ってくる紅葉シーズンです。ぜひ歩いた際には注目してみてください。

麓で真っ赤に染まるヤマウルシ(かぶれるので触れないように注意!)が多いのが、この山の特徴です。

まとめ

今年は夏が暑すぎたせいか、なんだか気持ちが秋モードに切り替わっていかないように感じていましたが、自然の営みは、きっちりと季節の移ろいを進めているようです。

今シーズンの紅葉はいつが見頃を迎えるのか、みなさん気になってくるところかと思いますが、以前から思っているのは「紅葉のピークは人それぞれ」。景色の切り取り方や個々の感じ方で、ピークは違ってくるのではないのかと考えています。

僕自身も、紅葉のピークと言われる時期を過ぎた後の、褐色に染まるミズナラの渋い色合いがお気に入りですし、紅葉シーズン終盤を彩るカラマツが黄葉すると「あぁ、冬が来るんだな」と季節の区切りを感じます。広葉樹が落葉しきった後に落ち葉をザクザク踏みながら歩くのも楽しみです。

おそらく、ハイカー自身の心にグッと響くワンシーンがあると思いますので、みなさんそれぞれの紅葉ピークを見つけるのも良いのではないでしょうか。

それでは、良い紅葉ハイクを!

ミズナラの褐色の葉が夕日に染まる瞬間は格別です。
小春日和に、鮮やかなカラマツの黄葉を眺めながら歩くなんて最高です。
この時期を狙って森に出かけるわけです。
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Writer

萩原 寛暢(はぎわら ひろのぶ)

1979年、北海道旭川市生まれ。山岳部出身の父親のもと、豊かな自然と父コレクションの地形図に囲まれた生活環境で育つ。自身の意志とは関係なく山に連れていかれた幼少期から、少々山が嫌いになるものの、高校時代の恩師との出会いから地理の教員を志し、大学では地理学を専攻。かつて嫌いになりかけていた山と地図読みの日々を、今度は自主的に行うことになる。

フィールドワーク中心の大学時代「人と自然の接点」について考え、疑問をもつようになる。同時期にある本に出会い「自然のことを通訳して人との接点をつくる=“インタープリター”」という仕事を知る。このことをきっかけに進路を大きく変更することとなる。

大学卒業後、いくつかのガイド会社で経験を積んだ後、国立公園のビジターセンター勤務、旅行会社でのガイド・着地型観光商品開発などを経て、一念発起してフリーランスとして独立。現在はフリーランスでの自然ガイドの他、地域の子ども向けに木育・自然体験活動の企画運営を行う「てしかが自然学校」を運営する。さらに家庭では2女の父として、娘からの塩対応に日々悩みながらも家事に奮闘する主夫でもある。

北海道知事認定 北海道マスターガイド(自然)
北海道認定 木育マイスター
弟子屈町議会議員

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