森の声を聴く #05 イソツツジ

文:萩原寛暢 写真:萩原寛暢、國分知貴 編集:MKTマガジン 

森の声を聞き、人間の言葉にして伝えてくれるインタープリタ―(通訳者)の萩原寛暢(通称ハギー)さんによる連載。MKTやその周辺の植物を中心に、それらにまつわる土地や動物など、トレイルの傍らにひっそりと強く生きるものたちが放つメッセージやストーリーを拾い上げ、ハギーさんの想いと共に、優しく、丁寧に解説していきます。

こんにちは。自然ガイドの萩原寛暢(はぎわらひろのぶ)です。トレイルハイクの景色がより彩り豊かになるよう、トレイル沿いで観察できる自然の営みにスポットを当てていくこの企画。 摩周・屈斜路トレイルは、一気に歩きとおすスルーハイクだけでなく、つまみ食い的に部分的に楽しむセクションハイクも、トレイルハイクの楽しみ方の一つです。

そんなセクションハイクでお勧めは?とよく聞かれますが、やはり6月のイソツツジが咲く頃の「つつじヶ原」は筆頭に挙げられるハイキングスポットではないでしょうか。イソツツジは、MKTマガジンのネタとして温存していたので、満を持しての登場、という気分でドキドキしながら原稿を書いております!

アトサヌプリの山麓にある「つつじヶ原」

摩周・屈斜路トレイルは、全長62㎞を3つのセクションに区分しており、摩周湖~川湯温泉を結ぶセクション1は、屈斜路カルデラの地形を体感できる「火山の道」です。(セクション概要はコチラ

いまもなおゴウゴウと噴気を上げる活火山のアトサヌプリ(硫黄山)は、まさに火山の道の核心部であり、山麓のつつじヶ原自然探勝路(片道約2.5㎞)には、イソツツジの白い花が群落を成しています。

アトサヌプリは入山禁止の山ですが、ガイドツアーでのみ立ち入ることができます。

低地の高山植物群落

今回紹介するイソツツジ(ツツジ科イソツツジ属)は、高山植物にも分類され、湿地や高山帯に生育する常緑の低木です。植物名は、町内では何かと色々な表記を見かけますが、図鑑に載っている標準和名は「イソツツジ」。元々は北海道を意味する蝦夷(エゾ)が訛って「イソ」が付いたともいわれていますが、「エゾイソツツジ(これは図鑑の索引にも載っています)」とか、「白つつじ」とか「エゾイソシロツツジ」とか…。そのような表記も否定するつもりもありませんが、それだけ町民からも愛着ある花だからなのかな、と理解しています。

イソツツジは高山植物とお伝えしましたが、ここ、つつじヶ原はせいぜい標高150m程度。アトサヌプリのかつての火山活動によって堆積した酸性土壌により、他の植物がなかなか生育できない中、イソツツジやハイマツ、ガンコウランといった高山植物が、低地にも関わらず生育しているという特異な環境なのです。川湯温泉~アトサヌプリ間の約2.5㎞のつつじヶ原自然探勝路は、高山に登らなくとも、この高山植物群落の真ん中を歩いて行ける、何ともお得な気分になれる散策路なのです。

ハイマツは地面を“這う”ように生えるから“ハイ”マツといいます。山に登る方なら背丈が低い印象をお持ちかと思いますが、つつじヶ原では低地がゆえに立ち上がってしまっているハイマツの下をくぐっていくように歩きます。
一般的なハイマツといえば、こんな感じで地面を這うように広がっています
つつじヶ原を歩いてみると、背丈を超えるほどに立ち上がったハイマツが広がっています。
地面を覆うように生えているガンコウラン。草のように見えますが、樹木に分類されています。8月頃にはブルーベリーのような実が目立つようになりますが、このエリアは国立公園でも保護の規制が一番強い特別保護地区なので、摘んではいけません…。

イソツツジはいつが見頃?

イソツツジの群落は、100haとも言われる広大な群落であるため、イソツツジが同時に咲くわけではなく、場所によってタイミングが違います。おおむね、5月下旬~6月下旬が開花時期ですが、参考までに咲く時期と場所を次に記しておきます。

川湯ビジターセンター作成のMAPに咲く順番とオススメ場所を記載してみました。

① 5月下旬

アトサヌプリ中腹では地熱の影響で、ゴールデンウィーク明けには咲き始めている場所もありますが、麓で一番先に咲くのは、硫黄山MOKMOKUベース(レストハウス)のすぐ裏。駐車場に停めて噴気が見える方に行く観光客がほとんどですので、ここはひっそりとイソツツジを観察することができて穴場的スポットだと個人的には思っています。

② 6月初旬

硫黄山MOKMOKベースの裏で咲き始めた後に、イソツツジの花が広がってくるのは、つつじヶ原自然探勝路の硫黄山駐車場側と、川湯温泉側。散策路の両サイドから咲いてくるようなイメージです。

特に注目してもらいたいのは、硫黄山駐車場側の散策路沿い。駐車場~ハイマツデッキの区間は、ハイマツの枝をくぐりながら歩いていくような場所ですが、ハイマツの根元のイソツツジが元気に花をつけているのが分かると思います。冬期のイソツツジは、雪の下に埋まることで風雪をしのごうという作戦なので背丈が低いわけですが、特にハイマツに守られている根元付近は、生育具合が良いのだと考えられています。

ハイマツの陰にあるイソツツジは、その年に新しく出てくる枝が良く伸びています。花(写真は散った後)の一段下から出てくる枝をチェック!

③6月中旬~下旬

この頃になると、②の場所は散り始めていることが多いと思いますが、最後にイソツツジが咲き残っているのはこの辺り。一面のお花畑を歩けるのはこの時期だけです。

個人的には、この時期の晴れた穏やかな日に、ここのベンチでしばらくのんびりしているのがお勧めです。時折、上空をタカが通り過ぎていくことも。双眼鏡を持参して、お弁当タイムはいかがでしょうか!

自然情報収集のお仕事中に、このベンチで寝っ転がってサボっていたことも…。空が広いのですよねぇ。

6月10日~7月10日には、開花時期に合わせた早朝散策会も開催されていますので、川湯温泉にお泊りの方は要チェックです。

お花の時期が終わっても…

6月のイソツツジの開花時期が終わったら、どこか見どころが無くなってしまうかのようですが、それでも、川湯温泉からアトサヌプリに近づくにつれて、火山の影響による植生の変化が観察でき、火山の道の核心部であることに変わりはありません。川湯ビジターセンターの展示を見学したり、地域のガイドをご利用いただくなどして、理解を深めていただければ嬉しいです。

10月には、探勝路から見られるマクワンチサップの独特な紅葉や(森の声を聞く#4を参照)、初春・晩秋にだけ見られる、冬支度したイソツツジの、一面に赤茶けた様子も渋みがあってお気に入りの景色です。どの季節も歩きごたえ十分の散策路ですので、ぜひ訪れていただければと思います。

雪解け後すぐか、積雪直前しか見られない、赤茶けたつつじヶ原。この荒涼とした感じも何とも味わい深いのです。
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Writer

萩原 寛暢(はぎわら ひろのぶ)

1979年、北海道旭川市生まれ。山岳部出身の父親のもと、豊かな自然と父コレクションの地形図に囲まれた生活環境で育つ。自身の意志とは関係なく山に連れていかれた幼少期から、少々山が嫌いになるものの、高校時代の恩師との出会いから地理の教員を志し、大学では地理学を専攻。かつて嫌いになりかけていた山と地図読みの日々を、今度は自主的に行うことになる。

フィールドワーク中心の大学時代「人と自然の接点」について考え、疑問をもつようになる。同時期にある本に出会い「自然のことを通訳して人との接点をつくる=“インタープリター”」という仕事を知る。このことをきっかけに進路を大きく変更することとなる。

大学卒業後、いくつかのガイド会社で経験を積んだ後、国立公園のビジターセンター勤務、旅行会社でのガイド・着地型観光商品開発などを経て、一念発起してフリーランスとして独立。現在はフリーランスでの自然ガイドの他、地域の子ども向けに木育・自然体験活動の企画運営を行う「てしかが自然学校」を運営する。さらに家庭では2女の父として、娘からの塩対応に日々悩みながらも家事に奮闘する主夫でもある。

北海道知事認定 北海道マスターガイド(自然)
北海道知事認定 木育マイスター
弟子屈町議会議員

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