文:萩原寛暢 写真:萩原寛暢、國分知貴 編集:MKTマガジン
森の声を聞き、人間の言葉にして伝えてくれるインタープリタ―(通訳者)の萩原寛暢(通称ハギー)さんによる連載。MKTやその周辺の植物を中心に、それらにまつわる土地や動物など、トレイルの傍らにひっそりと強く生きるものたちが放つメッセージやストーリーを拾い上げ、ハギーさんの想いと共に、優しく、丁寧に解説していきます。
こんにちは。自然ガイドの萩原寛暢(はぎわらひろのぶ)です。トレイルハイクの景色がより彩り豊かになるよう、トレイル沿いで観察できる自然の営みにスポットを当てていくこの企画。 摩周・屈斜路トレイルは、一気に歩きとおすスルーハイクだけでなく、つまみ食い的に部分的に楽しむセクションハイクも、トレイルハイクの楽しみ方の一つです。
そんなセクションハイクでお勧めは?とよく聞かれますが、やはり6月のイソツツジが咲く頃の「つつじヶ原」は筆頭に挙げられるハイキングスポットではないでしょうか。イソツツジは、MKTマガジンのネタとして温存していたので、満を持しての登場、という気分でドキドキしながら原稿を書いております!
アトサヌプリの山麓にある「つつじヶ原」
摩周・屈斜路トレイルは、全長62㎞を3つのセクションに区分しており、摩周湖~川湯温泉を結ぶセクション1は、屈斜路カルデラの地形を体感できる「火山の道」です。(セクション概要はコチラ)
いまもなおゴウゴウと噴気を上げる活火山のアトサヌプリ(硫黄山)は、まさに火山の道の核心部であり、山麓のつつじヶ原自然探勝路(片道約2.5㎞)には、イソツツジの白い花が群落を成しています。
低地の高山植物群落
今回紹介するイソツツジ(ツツジ科イソツツジ属)は、高山植物にも分類され、湿地や高山帯に生育する常緑の低木です。植物名は、町内では何かと色々な表記を見かけますが、図鑑に載っている標準和名は「イソツツジ」。元々は北海道を意味する蝦夷(エゾ)が訛って「イソ」が付いたともいわれていますが、「エゾイソツツジ(これは図鑑の索引にも載っています)」とか、「白つつじ」とか「エゾイソシロツツジ」とか…。そのような表記も否定するつもりもありませんが、それだけ町民からも愛着ある花だからなのかな、と理解しています。
イソツツジは高山植物とお伝えしましたが、ここ、つつじヶ原はせいぜい標高150m程度。アトサヌプリのかつての火山活動によって堆積した酸性土壌により、他の植物がなかなか生育できない中、イソツツジやハイマツ、ガンコウランといった高山植物が、低地にも関わらず生育しているという特異な環境なのです。川湯温泉~アトサヌプリ間の約2.5㎞のつつじヶ原自然探勝路は、高山に登らなくとも、この高山植物群落の真ん中を歩いて行ける、何ともお得な気分になれる散策路なのです。
イソツツジはいつが見頃?
イソツツジの群落は、100haとも言われる広大な群落であるため、イソツツジが同時に咲くわけではなく、場所によってタイミングが違います。おおむね、5月下旬~6月下旬が開花時期ですが、参考までに咲く時期と場所を次に記しておきます。
① 5月下旬
アトサヌプリ中腹では地熱の影響で、ゴールデンウィーク明けには咲き始めている場所もありますが、麓で一番先に咲くのは、硫黄山MOKMOKUベース(レストハウス)のすぐ裏。駐車場に停めて噴気が見える方に行く観光客がほとんどですので、ここはひっそりとイソツツジを観察することができて穴場的スポットだと個人的には思っています。
② 6月初旬
硫黄山MOKMOKベースの裏で咲き始めた後に、イソツツジの花が広がってくるのは、つつじヶ原自然探勝路の硫黄山駐車場側と、川湯温泉側。散策路の両サイドから咲いてくるようなイメージです。
特に注目してもらいたいのは、硫黄山駐車場側の散策路沿い。駐車場~ハイマツデッキの区間は、ハイマツの枝をくぐりながら歩いていくような場所ですが、ハイマツの根元のイソツツジが元気に花をつけているのが分かると思います。冬期のイソツツジは、雪の下に埋まることで風雪をしのごうという作戦なので背丈が低いわけですが、特にハイマツに守られている根元付近は、生育具合が良いのだと考えられています。
③6月中旬~下旬
この頃になると、②の場所は散り始めていることが多いと思いますが、最後にイソツツジが咲き残っているのはこの辺り。一面のお花畑を歩けるのはこの時期だけです。
個人的には、この時期の晴れた穏やかな日に、ここのベンチでしばらくのんびりしているのがお勧めです。時折、上空をタカが通り過ぎていくことも。双眼鏡を持参して、お弁当タイムはいかがでしょうか!
6月10日~7月10日には、開花時期に合わせた早朝散策会も開催されていますので、川湯温泉にお泊りの方は要チェックです。
お花の時期が終わっても…
6月のイソツツジの開花時期が終わったら、どこか見どころが無くなってしまうかのようですが、それでも、川湯温泉からアトサヌプリに近づくにつれて、火山の影響による植生の変化が観察でき、火山の道の核心部であることに変わりはありません。川湯ビジターセンターの展示を見学したり、地域のガイドをご利用いただくなどして、理解を深めていただければ嬉しいです。
10月には、探勝路から見られるマクワンチサップの独特な紅葉や(森の声を聞く#4を参照)、初春・晩秋にだけ見られる、冬支度したイソツツジの、一面に赤茶けた様子も渋みがあってお気に入りの景色です。どの季節も歩きごたえ十分の散策路ですので、ぜひ訪れていただければと思います。