森の声を聴く #06 オオウバユリ(後編)

文・写真:萩原寛暢 編集:MKTマガジン

森の声を聞き、人間の言葉にして伝えてくれるインタープリタ―(通訳者)の萩原寛暢(通称ハギー)さんによる連載。MKTやその周辺の植物を中心に、それらにまつわる土地や動物など、トレイルの傍らにひっそりと強く生きるものたちが放つメッセージやストーリーを拾い上げ、ハギーさんの想いと共に、優しく、丁寧に解説していきます。

こんにちは。自然ガイドの萩原寛暢(はぎわらひろのぶ)です。トレイル沿いで観察できる自然の営みにスポットを当てていくこの企画。MKTもすっかり雪に覆われ、トレイルハイキングはオフシーズンの冬期ですが、今回は以前ご紹介し、後編に続くと言ったままになっていた『森の声を聴く。#02オオウバユリ』の後編についてお話をしたいと思います。

冬の観察のおもしろさ

前編では四季の様子をお伝えしましたが、オオウバユリは秋に立ち枯れた後でも、雪の中からピョコッと頭を出しているのを見かけます。オオウバユリのことを知らないと、なかなか目に入ってこないかもしれませんが、冬でもぜひ探していただきたい姿です。意外とあります!

林の縁や、道路沿いが探しやすいと思います!

同様に、冬には落葉して何もなさそうに見えてしまう森の木々たちも、ほんの少し知識をつけておくと面白さが広がります。広葉樹であれば、冬芽や枝ぶりに個性があるので、遠くから眺めて「あれはヤチダモだな」とか「これはオニグルミに違いない」とか予測をしつつ、冬はスノーシューなどを使えば、木の根本にも寄っていけるので、冬芽を見たり雪を掘って落ち葉を探したりと、答え合わせもできます。

さらに、冬のうちに場所を覚えておき、次の夏にまた同じ木を訪ねてみるというように、一年を通して観察をしていると認識が深まり、樹種が持つ雰囲気のようなものも掴めてくるような気がしています。こうした繰り返しで、植物との距離が縮まってくるのも、自然のすぐ近くに暮らしている醍醐味かと思います。

一年を通して存在感を放つオオウバユリ

さて、今回のテーマであるオオウバユリ。ユリ科(ウバユリ属)の多年草で、本州中部と北海道内に分布しており、MKTを歩いていると道路沿いでよく見かけます。とくに真夏の花の姿は迫力があり、7月の初め頃に咲き始めると「夏が来たぞ!」と思わせてくれる、存在感のある植物です。

高さが1~1.5mにもなる巨大な植物で、緑白色で筒状の花を5~20個も横向きに咲かせる。

また種子を飛ばした後の朔果(さくか)は、個性的な風貌ゆえに、クリスマスリースなどに使われるドライフラワーの一種として市場に出回っていたりもします。

種が抜けた後の朔果。手芸用品店などで販売されているのを見かけることも。

芽吹きから枯れるまで、地上のオオウバユリの形態変化については前編で詳しく紹介していますので、興味のある方はぜひそちらもご覧ください。森の声を聴く。#02オオウバユリ『四季の形態変化』編

多年草の仲間たちも、よき観察対象になる

もうひとつ、オオウバユリが気になる存在である理由は、多年草であること。多年草がそこにあるということは、その土地が自然的にも人為的にも地表が撹拌されることなく、長く残されてきた場所であるという証拠でもあります。オオウバユリの葉は大きくてよく目立ちますので(前編参照)、春先にトレイルを歩き始めて、先シーズンと同じ場所で見つけると、「やぁ、また会えたね。今年もよろしく!」なんて気分になってしまいます。

他にもMKTでよく見かける多年草は、エンレイソウ、バイケイソウ、ギョウジャニンニクなどが思いつきます。

エンレイソウ類の特徴は「3」。花弁も、がく片も、葉も3枚、花の中央にある雌しべも3本…とすべてが3つもしくは3の倍数になっている。写真はオオバナノエンレイソウ。森の声を聴く。#01エンレイソウ

MKT沿いで見られるエンレイソウ類は、春先に咲く白く大きな花弁が魅力ですが、葉っぱが3枚という特徴もあるので、花が咲く前から見つけやすいですね。

バイケイソウは、MKT沿いでは和琴半島で見つけやすい。写真は後述の自宅周辺の散歩道に生えてきたもの。

2024年6月に摩周岳登山道で一斉に咲いていたバイケイソウの花

バイケイソウは春先になると葉っぱがニョキニョキと出て、背が高いのでよく目立ちます。毒草なのでエゾシカが食べないせいもあるのかと思っています。また、花が咲くのは数年(数十年?)に一度とも言われており、見ることができればラッキーです!

MKT沿いでも見かけるギョウジャニンニクは華奢で、山菜として味わうのには物足りない……どうかそのままに。写真は、秘密の場所で見つけたお花畑。

ギョウジャニンニクは、山菜としても有名なので、みなさんもよくチェックしていると思いますが、意外とその辺に(MKT沿いにも)生えています。山菜の時期が過ぎた後に、たまにネギボウズを見つけることがありますが、「摘み取られずに済んだね」と、なんだかホッとすることもあります。

オオウバユリへの興味は地中へ…

数年前、自宅周辺のカラマツ林に散歩道を作るためにササ刈りをしたところ、日当たりがよくなったせいか、刈り払った道を塞いでしまうほどにオオウバユリやバイケイソウが次々と葉を出し始めた!ということがあったのです。 

アイヌの人たちがオオウバユリの鱗茎を食べるという話は、何となく知ってはいました。鱗茎とは、様々に類別された地下茎の一つで、身近なところでは、タマネギやニンニクといった我々が口にするものや、馴染みあるところではチューリップの球根などが鱗茎にあたります。オオウバユリの鱗茎の食べ方については、情報が乏しかったのですが、オオウバユリがたくさん生えてきてしまったことだし、ただ刈り払うだけではもったいないので、「掘って食べてみよう」と思い立ったわけです。

余談ですが、民族共生象徴空間ウポポイのPRキャラクターである、「トゥレッポん」は、このオオウバユリの鱗茎をモチーフにしています。まだ種を飛ばす前の緑色の実をたくさんつけた茎を左手に持ち(前編の「形態七変化」の⑥)、右手には、オオウバユリの鱗茎から作る保存食、「トゥレプ(小さい「プ」)アカム(小さい「ム」)」を持っています。

2020年に北海道・白老町に誕生した『ウポポイ 民族共生象徴空間』のPRキャラクターが、トゥレッポん。「トゥレプ(小さい「プ」)」とは、アイヌ語でオオウバユリを意味する。ウェブサイトでも紹介されています。

話は戻り、散歩道に生えてきてしまい大きく葉を茂らせたオオウバユリの鱗茎を掘り出してみます!このとき注意するのは、葉っぱ状態のオオウバユリには、その年に花が咲く株と咲かない株の2タイプがあるということ。花を咲かせるまでに1年1年栄養分を蓄え続けていくので咲かない株もあるのです。

採取すべき本命は花が咲かない株の鱗茎で、花が咲く株からは採らない。という話を聞いたことがあったのですが、せっかくなので(どうせ刈り払ってしまうのだし)、両方掘ってみたのです。同じような形の鱗茎なのかと思ったら、かなり違っていました。

写真左:茎が1本すっと立ってるのが、花が咲く株   写真右:横に数本広がっているのが、花が咲かない株

本命である花が咲かない株は、掘ってみるとふっくらと丸い形状で、外側の皮をめくってみると、白くツヤツヤとした、まさにトゥレッポんと同じものがありました。鱗茎といえる、鱗状に重なった形状です。

一方、本来であれば採らないはずの、花が咲く株の鱗茎はというと、掘ってみると膨らみや鱗状のものがなく、真っ直ぐ伸びて中は空洞になっていました。花を咲かせるために鱗茎の栄養を使い切っているので、食べられる部分はもはや無いのだなと勝手に納得したわけです。

こちらが本命、花が咲かない株の鱗茎。ふっくらとしている。
一方、本来であれば採らないはずの、花が咲く株の地下茎。

本命の鱗茎は、よく洗い、1枚1枚を丁寧に剥いていただくことができました。

萩原家が試食したオオウバユリの油炒め、美味!
ちなみにお皿は、娘が陶芸体験で作った摩周北創窯のものです。

シンプルに油で炒めて塩のみで味付けしたのですが、ほんとユリ根に似た感じ。ジャガイモよりは少しねっとりした舌触りで、ほんのり甘味もあって心身に染み渡るような(大げさ)優しい味わいがしました。1,2枚食べたところで、残りは娘たちにあっという間に食べられてしまいましたが…。

いままではオオウバユリの地上の部分しか見ていなかったわけですが、こうして地中のことも実際に見て、触って、しかも味わったことで、なんとなく覚えていただけの知識を確かめることもでき、とても有意義でした。

観察は眺めるだけでなく

出会った植物は眺めるだけでなく、今回のように味覚であったり、あるいは匂いを嗅いでみたり、葉っぱに触ってみたり、五感を使って体感してみると、新たな印象が加わって、さらに興味が湧いてくる気がしています。

たとえばハルニレの葉っぱは、見た目は小さくてかわいらしいなんて思うけど、いざ触るとガサガサしてて「思ってた印象とは違うぞ」となります。ほかにも同じようにツンツンした針葉樹の葉も、エゾマツはチクチクするけど、トドマツは案外柔らかく触れた手に香りがつく、というような感じです。
※摘み取って食べるのには適さない場合もありますし、毒性のあるものには触れてはいけないので、事前にちゃんと調べたり、詳しい人と一緒に試したりしましょう…。

暦の上では立春が過ぎ、徐々に陽射しが強くなって春を感じるようになってきますが、まだもう少し雪に覆われた季節は続きます。雪解け後の木々の芽吹きや多年草との再会を楽しみにしつつ、冬の森歩きを楽しんでいこうと思います。

オオウバユリの芽吹きは、厚くツヤツヤで赤い葉脈の葉っぱが特徴。また出会えるかな。
  • URLをコピーしました!

Writer

萩原 寛暢(はぎわら ひろのぶ)

1979年、北海道旭川市生まれ。山岳部出身の父親のもと、豊かな自然と父コレクションの地形図に囲まれた生活環境で育つ。自身の意志とは関係なく山に連れていかれた幼少期から、少々山が嫌いになるものの、高校時代の恩師との出会いから地理の教員を志し、大学では地理学を専攻。かつて嫌いになりかけていた山と地図読みの日々を、今度は自主的に行うことになる。

フィールドワーク中心の大学時代「人と自然の接点」について考え、疑問をもつようになる。同時期にある本に出会い「自然のことを通訳して人との接点をつくる=“インタープリター”」という仕事を知る。このことをきっかけに進路を大きく変更することとなる。

大学卒業後、いくつかのガイド会社で経験を積んだ後、国立公園のビジターセンター勤務、旅行会社でのガイド・着地型観光商品開発などを経て、一念発起してフリーランスとして独立。現在はフリーランスでの自然ガイドの他、地域の子ども向けに木育・自然体験活動の企画運営を行う「てしかが自然学校」を運営する。さらに家庭では2女の父として、娘からの塩対応に日々悩みながらも家事に奮闘する主夫でもある。

北海道知事認定 北海道マスターガイド(自然)
北海道知事認定 木育マイスター
弟子屈町議会議員

目次