2025年開通予定。MKTのクライマックス!美幌峠につながる道を歩いてきた。

文:井出千種 写真:國分知貴 

2024年10月20日「摩周・屈斜路トレイルを歩こう会」が開催された。このイベントはてしかがトレイルクラブ(以下TTC)主催の恒例行事で、毎年紅葉シーズンに一般参加者を募ってみんなで歩く会。この日は、未開通ルートの一部(セクション3 屈斜路プリンスホテルから先の一部)を特別に歩くことができると聞いて、MKTマガジン編集部の2人で参加、取材してきた。

MKTのラストを飾るこのセクション。開通を待ち望んでいるハイカーもきっと多いはず。実際に歩いて率直に感じたのは「まさにクライマックス」ということ。2025年の開通よりひと足早く、その魅力のほんの一部をお届けしたい。次のシーズンに向けて、ぜひイメージを高めてみて欲しい。

※セクション概要の詳細や、開通情報はコチラをご覧ください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝の気温は5度。「冬がやってくるぞ〜」と言わんばかりの強い北風が吹く美幌峠(ゴールポイント)に集合し、車に分乗してスタート地点である屈斜路プリンスホテル付近の駐車帯へ。スタート前、TTCの土屋重敏さんと小林由紀子さんからの挨拶が印象的だった。

「みなさんご存知のようにMKTは、摩周湖をスタートして、屈斜路カルデラを通って、美幌峠を目指すトレイルです。今日歩くルートは、その最終パート。ここまできてMKTが完結します。一部は正式ルートではないのですが、来年にはつながる予定なので、ぜひスルーハイクしてみてください」

こう語りかける2人はTTC発足以来、活動を牽引してきた立役者。セクション3を美幌峠まで開通し、2025年中に公開することを目指して、整備や調整に日々奔走しているのだ。

ちょうど紅葉も見頃を迎えた。

軽いストレッチの後、屈斜路プリンスホテルの少し奥から、屈斜路湖沿いの落ち葉の道を歩き始めた。真っ赤なヤマモミジ、黄色いイタヤカエデ、色とりどりのカツラ、ミズナラ、シラカンバ、ウダイカンバ……。湖畔沿いの森の植生が豊かな証拠だ。フカフカの落ち葉を踏みながら、その感触を楽しみながら、秋色に染まった森の中を進む。

「うわぁ、きれい」あちらこちらから感嘆の声が上がる。紅葉シーズンの湖畔の道は、本当に美しい。上も下も、右も左も、360度楽しめる。やがてヤマブドウの木の下から、屈斜路湖の景観が広がった。日本でいちばん大きいカルデラ湖。その奥にはアトサヌプリ(硫黄山)が見える。つまり辿ってきた道を眺めることができるのだ。

木々の間から時々湖を眺めることができる。

「摩周湖第一展望台からスタートしていたら、ここで『あぁ、あそこからずっと歩いてきたんだな』って感激すると思う」と話すのは、本日撮影している國分知貴さん。湖畔林道合流までの約2.5kmの道は森の中。國分さんは、しばしば立ち止まっては、寄ったり引いたり、しゃがんだり見上げたりしながら、たくさんの写真を撮っていた。

国道脇の枯れた巨木。
カツラの巨木、足元からは綿飴のような甘い香りが立ち昇る。
土屋さんが見つけてくれた鳥の巣。家主はおそらくシマエナガかミソサザイとのこと。
産卵のために岸に寄ってきたヒメマスの群れ。ゆらりと動く背びれが見える。

ありのままの自然が見せるさまざまな姿から、季節が変わるタイミングを知る。植物も、動物も、みんなが一斉に冬の支度を始める感じが、何だか楽しい。

「当初はもっと早くゴール(美幌峠)まで繋げられると思っていたんですが、許可問題など難しい部分も多く、最初の整備から5年も経っています」と土屋さん。

この日は代替ルートとして、一部湖畔林道を歩いた。「正式ルートは山側の森の中。今月末に道を決めて年内に整備します。来年の春には間に合わせたいので」と土屋さん。(2024年10月20日現在)

美幌峠旧道入口まで辿り着いたとき、小林さんが解説を始めてくれた。

「阿寒横断道路や摩周湖周辺の道路を造った永山在兼(ありかね)さん、ご存知ですか? 当時の釧路土木事務所の所長さんで、このエリアが国立公園になる前から、観光客が来るだろうと予測していろんな道路を造りました。これから歩く美幌峠までの旧道も然り。ここは大正9年に開通したそうです」

「この道は、首の高さまであったササをみんなで刈ったんですよ」と、土屋さんがしみじみと話してくれた。

(時代は進み)「昭和28年に公開された映画『君の名は』のロケで美幌峠が使われて、観光客がさらにたくさん来るようになったので、昭和35年から現在の国道が整備されて10年かけて開通。以来、旧道は埋もれていたんです。5年前にTTCが整備を始めた時、『道幅も広いので、ここを歩けるようにしたらいいね』って。歴史がある道なので、昔のことも想像しながら歩いてもらえたらいいな、と思います」

歩き始めた旧道は、かつて観光道路だったことを彷彿とさせる、いい感じのカーブを描いている。きっと観光バスの車窓から眺めていたのだろうなぁ、と思わせる、立派なアカエゾマツが美しい。

半世紀以上放置されてきた森には、荘厳な雰囲気が漂っている。小林さんの歴史の話も手伝ってか、タイムスリップしているような気分で歩いた。

パイナップルみたいなホオノキの実。
木の幹に咥え込まれた山火事注「意」の金属看板。長い年月の経過を感じる。

隣を歩く國分さんの口癖(感嘆の声)が、「きれい」から「いいですね」に変わった。

「地形を見て自然の流れを想像するのが好きです。山を流れる沢水が、湖に注いでいくその流れを感じる、というような。ずっと湖を眺めて歩いてきて、その水がここで湧いていることを目の当たりにできることは、とても素敵だと思います」

山肌から滲み出る沢水。長い長い水の旅、その始まりを感じることができる。

ずいぶん高度が上がったなぁ、と感じて進行方向を見上げたら、美幌峠の防雪柵がずいぶん近くに見えてきた。国道243号を横断して、トラバースするようにゴールを目指す道は、さらに素晴らしかった。

空に続くようなトラバース。視線の先には美幌峠が見える。

「すげぇいい」國分さんの口癖が、また変わった。「僕らはカルデラというすり鉢の中を歩いてきた。歩きながら見てきた風景は、記憶に残っている。きっとこの場所で込み上げてくるものがあると思います」

MKTの起点となる摩周湖第一展望台を指差す小林さん。

背高のっぽの針葉樹がぽつんぽつんと立っている奥に、斜里岳が見えた。ここは、あと少しで総距離62キロに及ぶMKTのゴールに到達する道。3日間歩き続けていたとしたら、どんな気持ちになるだろう。来年はきっとスルーハイクするぞ、そう思った。

この日、初冠雪した斜里岳。

「摩周湖を眺めて始まり、屈斜路湖を眺めて終わるMKT。今日の道は、やはりクライマックスですね。屈斜路カルデラの森、火山、温泉地、湖畔を歩いてきて、最後にそのすべてを俯瞰することができるわけですから。自分の足で歩いた人だけが感じることのできる何かが、きっとあると思います」と、感慨深げに語る土屋さん。

MKTをなんとしてでもゴールまで実現させようと、熱い想いを抱いて苦労と努力と整備を重ねてきたTTCの面々に、改めて敬意を表したい。

美幌峠から、南に位置する津別峠までの道(10.8キロ)と、北東に位置する藻琴山までの道(14.2キロ)から成るKCT。その看板も設置されている。

MKTは美幌峠でゴールとなるが、そこから津別峠や藻琴山をつなぐ「屈斜路カルデラトレイル(KCT)」や、釧路市から羅臼町までを南北に繋ぐ全長約410kmの長く歩く旅の道「北海道東トレイル」も2024年秋オープンした。道東エリアの自然を歩き、ゆっくりとその土地を楽しむ文化は少しずつ育っているように感じる。最後に、繰り返しとなるが、セクション3の美幌峠までのルート開通は2025年の予定。オフィシャルページやSNSでの情報更新をチェックして、開通後はぜひ歩きにきてほしい。

  • URLをコピーしました!

Writer

『MKT MAGAZINE 』とは、摩周・屈斜路トレイル(MKT)を歩くことが『もっと面白くなる』マガジン。

総距離50km(2023年4月現在)のトレイル上とその周辺には、
火山、湖、温泉、それらがつくりだす独特な自然景観と植生、
アイヌの歴史、そして現在ここで生活する人々の暮らしなど
この土地ならではの魅力と物語が詰まっています。

『MKT MAGAZINE 』ではその魅力をよく知る人々、MKTを愛する人、摩周・屈斜路のフィールドを愛する人と共にMKTならではの情報を発信していきます。

目次